設樂 馨

設樂 馨 准教授
したら かおる

現代日本語学が専門です。特に、文字表記論に関心があります。「おめでとう」という言葉を贈るのに、手書きの文字、カードにレタリングした文字、スマートフォンで打つ文字、SNSを使ったスタンプでは印象が大きく違います。しかも、それを読むタイミングだったり、読む側の記憶やその時の感情だったり、あるいは、メッセージを送った相手との関係によって、お祝いになったり嫌味になったり社交辞令だったり、と読む人にとっての意味は変化します。そういった文字を介した情報や挨拶などメッセージのやり取りのなかで、文脈や状況、メディアを包摂した、文字表記による言語生活のバリエーションが面白いなと思っています。

設樂ゼミブログ

連絡先shitara★mukogawa-u.ac.jp
(注)★を@に変えてお送りください。
担当教科日本語学概論、演習、日本語の世界(2023年度)
専門領域日本語学
所属学会社会言語科学会、計量国語学会
経歴杏林大学大学院国際協力研究科博士前期課程修了
武庫川女子大学大学院文学研究科 博士(文学)取得
武庫川女子大学文学部兼武庫川女子大学短期大学部助手・助教・講師
主な業績

『教師を目指す人のための教育方法・技術論』学芸図書,2012年(分担執筆)
『生涯学習論 つなぎ広げる学びの循環』学芸図書,2015年(共著)
「マスコミュニケーションにおける読解資源―表記効果の構造分析に向けて―」『日本語教育ができること、そしてことばについて 金田一先生と学んで 教授退職記念論文集』凡人社、2022年(編著)

担当する授業の内容・魅力

1年生開講「日本語学概論」は、日本語学の諸分野を鳥瞰するような授業です。ここでは文字表記から「ローマ字」を紹介します。明治時代にアメリカから来日した宣教師ヘボンによる『和英語林集成』が、さらに古く、室町時代に日本へ布教に来たキリシタン(ポルトガル語を使う外国人)による文献「キリシタン資料」がローマ字の素となります。キリストの教えをちょっとだけ引用しますので、当時のローマ字を読んでみましょう。

Kono anima wa shikishin ni inochi wo atae tatoi shikisin wa tsuchi hai to naru tomo kono anima wa owaru koto nashi

読めますよね。でも、知らない単語があるかもしれません。2語目のanimaは、現代語「アニメーション」に通じる単語で、辞書『広辞苑』に「キリシタン用語」として載っています。昭和30年『広辞苑』は、新村出(しんむら いずる)というキリシタン資料に詳しい言語研究者が作りました。同じanimaでも「ユング心理学の用語」を第一義に挙げる辞書もあるので、辞書もキリシタン資料も、書いた人の経験や社会が反映されるのですね、というように、資料から言葉を拾い、それを根拠に思考を巡らせて、主観で捉えがちな母語としての日本語を客体化し、学問の対象とする見方を育んでもらいます。

研究の魅力

あなたの中に「なぜ?」はあるでしょうか。その疑問を出発点にして、問の立て方が分かることが、この分野における研究の魅力かもしれません。答えのある問を解くのはいわば人の作ったパズルを解くようなもの、一方で何を分かろうとしているのか、内省して自己に潜む答えを求めて問を立てることは、自ら新たなパズルを作ることに似ているかもしれません。例えば、私は無意識に文字を探して、つい読んでは「あれはなぜここに書いてあるの?」「どうして読んでしまうの?」と不思議に思います。この「不思議」「分からない」という疑問から「分かるには?」へ発想を変えて、自分だけのパズルに作り変えるわけです。文字は何を伝え、何を表していて、読んでいる私は何を知りたかったのかと、問を立てる。その答えはなかなか見えてこないですが、問い続けてしまうということが魅力、というより、研究に魅了されてしまうということだと思います。

紹介したい一冊『生物から見た世界』ヤーコプ・フォン・ユクスキュル著

ことばが通じない生物が何を見ているのか、どう感じているのか、どうやったら人間にわかるのでしょう。ユニークな実験から推論を重ねて導き出された各説に、あなたは納得できるでしょうか。思考や論理を鍛え、抽象的な言語の諸理論を読むための準備になる一冊。